地域医療とキャリアアップ

海外留学や認定・専門看護師取得の他にもキャリアアップの道はあります。ここでは地域に根ざした医療を心がけてキャリアアップした人達の例を上げてみましょう。

【行き詰まり】
看護師歴も長くなり、結婚、出産をした後というのは看護師としての青天井にぶつかることがよくあります。また、様々な科を経験した上で出した結論に、病院での勤務が自分の道ではないと感じた人もいるでしょう。通常に言われる、専門性のある看護師や留学などはしづらく、看護師としての存在意義に疑問を持ってしまうことがあるのです。そんな中で、自分に出来ることを探し、地域医療に目を向けたり、他の看護の道を探っていく人たちもいるのです。そういった生き方もキャリアアップの一つと言えなくはないでしょうか。

【地域医療】
病棟勤務を通して人との関係を考えていたAさんは、大学進学を経て、地域医療の道を選びました。
地域医療といっても最初は訪問看護師ではなく、訪問介護員(ホームヘルパー)からのスタートでした。自転車で走り回る毎日の中、患者さんにとって、心地の良い状況を提供するための工夫を重ねました。例えば、食事介護の際の、患者さんの「食事がまずい」といった言葉から、介護食への関心を高め、個人でいろいろな介護食を取り寄せ食べ比べて、訪問看護ステーションや患者さん、介護者さんに提案してみたり、胃ろうの患者さんが「食べた」という満足感を得るために、どのようにすればいいかスタッフ同士で話し合ったりといったことです。
患者(介護者)さんは通常、動くことが困難なことが多く、多くの人が「食べること」喜びや生きる意味を持っているということ、自分の存在を疎んじる傾向にあること(とくに認知のない方の場合は顕著)に対し、生きる意義を考えてもらうことetc・・・。そういった問題を考えて、そして訪問看護師として新たに働き始めたのです。地域に根ざした、ということは、知っている人をいつも診るということにもなりますので、自然と親近感が湧きますし、それだけ患者さんに対し、「何ができるか」を考えることが多くなったそうです。また、訪問医療を行う医師との間のパイプ役として、夜間の対応や、緊急時の対応を行い、「自宅で死を迎えること」「病院で死を迎えること」についても何度も自問自答をしたそうです。
看護学生だった時には思いもしなかった道に進んで、大きくキャリアアップしたとAさんは考えています。

【全く別分野へ】
Bさんは大学病院の勤務を何年も続け、ベテランの域に達した看護師でした。
ただ、病院の性格上、深く患者さんと触れ合うことなく、見送ることしかできない自分に苛立ちを感じていたそうです。その後、訪問介護の経験もしましたが、それを踏まえて、あえて「白衣を着ない看護師」の道を歩むことを決めました。「災害医療」や「自然の中」こそが自分のいる場所だということを感じ、ツアーナースの仕事を見つけることとなりました。
ツアーナースですから、医師の指示がなく特別な治療はできませんが、いわゆる健康な人や怪我を負った人の中で、その人たちの中にある不安などを汲み取り、心身ともにつながりを持つことができたとBさんは言います。

二人の看護師の経験を例から、病棟勤務でなくても、自分の信じた方向に進むことがキャリアアップにつながるのではないでしょうか。